高级日语阅读:芥川龍之介 秋(2)
同窓たちは皆不思議がつた。その不思議がる心の中には、妙に嬉しい感情と、前とは全然違った意味で妬ましい感情とが交つてゐた。或者は彼女を信頼して、すべてを母親の意志に帰した。又或ものは彼女を疑つて、心がはりがしたとも云ひふらした。が、それらの解釈が結局想像に過ぎない事は、彼等自身さへ知らない訳ではなかつた。彼女はなぜ俊吉と結婚しなかつたか? 彼等はその後暫くの間、よるとさはると重大らしく、必(かならず)この疑問を話題にした。さうして彼是(かれこれ)二月ばかり経つと――全く信子を忘れてしまつた。勿論彼女が書く筈だつた長篇小説の噂なぞも。
信子はその間に大阪の郊外へ、幸福なるべき新家庭をつくつた。彼等の家はその界隈(かいわい)でも最も閑静な松林にあつた。松脂(まつやに)の匂と日の光と、――それが何時でも夫の留守は、二階建の新しい借家の中に、活(い)き活きした沈黙を領してゐた。信子はさう云ふ寂しい午後、時々理由もなく気が沈むと、きつと針箱の引出しを開けては、その底に畳んでしまつてある桃色の書簡箋をひろげて見た、書簡箋の上にはこんな事が、細々とペンで書いてあつた。
「――もう今日かぎり御姉様と御一しよにゐる事が出来ないと思ふと、これを書いてゐる間でさへ、止め度なく涙が溢れて来ます。御姉様。どうか、どうか私を御赦(おゆる)し下さい。照子は勿体ない御姉様の犠牲の前に、何と申し上げて好いかもわからずに居ります。
「御姉様は私の為に、今度の御縁談を御きめになりました。さうではないと仰有(おつしや)つても、私にはよくわかつて居ります。何時ぞや御一しよに帝劇を見物した晩、御姉様は私に俊さんは好きかと御尋(おき)きになりました。それから又好きならば、御姉様がきつと骨を折るから、俊さんの所へ行けとも仰有いました。あの時もう御姉様は、私が俊さんに差上げる筈の手紙を読んでいらしつたのでせう。あの手紙がなくなつた時、ほんたうに私は御姉様を御恨(おうら)めしく思ひました。(御免遊ばせ。この事だけでも私はどの位申し訳がないかわかりません。)ですからその晩も私には、御姉様の親切な御言葉も、皮肉のやうな気さへ致しました。私が怒つて御返事らしい御返事も碌(ろく)に致さなかつた事は、もちろん御忘れになりもなさりますまい。けれどもあれから二三日経つて、御姉様の御縁談が急にきまつてしまつた時、私はそれこそ死んででも、御詫びをしようかと思ひました。御姉様も俊さんが御好きなのでございますもの。(御隠しになつてはいや。私はよく存じて居りましてよ。)私の事さへ御かまひにならなければ、きつと御自分が俊さんの所へいらしつたのに違ひございません。それでも御姉様は私に、俊さんなぞは思つてゐないと、何度も繰返して仰有いました。さうしてとうとう心にもない御結婚をなすつて御しまひになりました。私の大事な御姉様。私が今日鶏を抱いて来て、大阪へいらつしやる御姉様に、御挨拶をなさいと申した事をまだ覚えていらしつて? 私は飼つてゐる鶏にも、私と一しよに御姉様へ御詫びを申して貰ひたかつたの。さうしたら、何にも御存知ない御母様まで御泣きになりましたのね。
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